読了。文庫5冊。でも圧倒的な筆力で読まされた。
小野不由美は歴史的造形が深く、医学的な勉強もよくしていると思う。ホラー小説であり、歴史小説であり、ミステリーであり、探偵物であり、ヒーロー物であり……。読む人によって様々な感想を抱くと思う。また誰に共感するかも十人十色であると思う。後書きを書いた宮部みゆきによれば、死よりももっと悪しきものを予感し、そのため悲劇的な最期を遂げた結城夏野か屍鬼になることによって人間の良心から解き放たれた村迫正雄か清水恵に共感するのではないか、とのことだったが、短慮に過ぎるように思う。
私が共感したのは室井静信。静信はいつだって「自分はいったい何なのか」という問いに苦しめられていた。そして数度の自殺未遂事件を起こした。村を愛し、村を憎む僧侶だった。彼の自問自答、諦念、自分探しの旅の過程で行った探偵稼業。そのすべてに共感する。私もまた自分が何者かわからないからだ。物語の終盤で答えを出せた静信は僥倖だったと思う。
そんな静信の対立項として、尾崎敏夫という医師が登場する。彼は科学者であり、科学を信奉しながらもやがてありえない結論へ達する。生来の頑固さと正義感から村人を襲う屍鬼を退治するハンターの役目を負う。そして静信と袂を分かっていく。
屍鬼となった少女 ――沙子(すなこ)に共感し、共に生きる決意をした静信を敏夫は黙って見逃す。そこに2人にしかわからない友情を感じる。

小野不由美はスティーブン・キングの「呪われた街」に題材を採ったそうだが、私としては萩尾望都「ポーの一族」が想起される。「ポーの一族」も人間を狩り血を食らう吸血鬼 ――バンパネラを題材にしている。相違点もあるが、共通点もかなり多い。小野が「ポーの一族」を読んだことがあるかどうかは不明だが、私は密かにあるのではないかと思う。

屍鬼となった静信と屍鬼を狩った敏夫。外場という村が消滅した後、どこかの街で偶然会うことがあっただろうか。終章では静信のその後は書かれているが、敏夫についてはまったく触れられていない。だけど、私は会ったのではないかと思う。その後敏夫がどのようになったのかはわからないけれども……

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